「人工鼻」の実現に手がかり

Yahooニュースを見てたらこんな記事が。

「人工鼻」の実現に手がかり - HealthDay Japan

嗅覚受容体を実験室で大量に作り出すことが可能となり、「人工鼻(artificial noses)」の実現にも可能性が出てきたという。
 米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版に10月7日掲載の論文によると、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループは、市販の小麦胚芽抽出物をもとに、無細胞合成によって特殊な受容体を作成。その後、いくつかの精製段階を経て、においを検知する蛋白(たんぱく)を単離することに成功した。この技術によって、嗅覚受容体を短時間で大量に産生できるようになり、嗅覚がどう働き、なぜ多くの異なるにおいを感知できるのかという嗅覚の謎の解明につながる可能性がある。

 「嗅覚の研究で大きな障壁となっていたのは、十分な量の受容体を作れず、またそれを均質に精製できなかったことである。今回ようやく受容体が原料としていつでも利用できるようになったことで、嗅覚に関する多くの新しい研究が可能になるだろう」と、この研究に基づいてMITの博士論文審査を受けたばかりのBrian Cook氏は述べている。研究チームによると、人工鼻を作ることによって、最終的には麻薬・爆発物探知犬に代わるものができるほか、医学的にも利用できる可能性があるという。

 ヒトは400個に近い機能遺伝子を含めた広大な嗅覚系をもっており、多様な受容体によって何万種類ものにおいを嗅ぎ分けることができる。論文の著者であるLiselotte Kaiser氏によると、嗅覚研究の鍵となる蛋白を単離することは困難とされていたが、数年かかってMITのチームは、疎水性洗剤溶液の利用により蛋白の構造および機能を維持したまま単離、精製することに成功した。今後は、多数のにおいを特定できる携帯型のマイクロ流体装置の開発に取り組む予定だという。

論文はこちら
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0804766105

メディアお決まりの早漏もののタイトルだけど、「人工鼻」という言葉に釣られてしまった。

これは分類的には化学センサ(分子センサ)ということになるけど、ちょっと前に田中耕一さんが、レーザー蒸発型のクロマトグラフィーの開発でノーベル賞をとったことからも分るように、人間の持つ感覚能力と関わる工学技術の中でも、化学センシングというのはほとんど開発が進んでいない領域のひとつだ(視覚や聴覚関連の技術と比べると、ほとんど何もされていないといっても過言ではないレベル)。

こうした新しい技術は僕達に一体何をもたらしてくれるだろうか。
ハッブル宇宙望遠鏡や、電子顕微鏡といった新しい道具が僕らに新しい世界を教えてくれたけど、こうした化学センサの発展の先にある技術というのもまた、僕らに何がしかの新しい世界を見せてくれるだろう(犬達が知っているのに、僕達がまだ知らないような)。

とはいえ技術的には実際にはレセプターだけあっても、その先というのがとてつもなく長い。レセプタをどこかに定着させ、かつそこから信号を安定的に取り出し、そしてそれを安価で量産する(つまり技術として完成させる)には、まだまだ果てしない時間がかかる。

技術の発展、ゆっくり見守って生きたい。