化学


最近何とはなしに、化学の基本的レベルの解説を読んだ。そしたら昔から抱いていた化学に対する違和感が急に解けた。僕の中で違和感になっていたのは、原子や分子、その他色々な性質や状態に、化学者たちが名前を与えていることだった、と理解できた。

炭素なぞ所詮6にすぎない。酸素など所詮8にすぎない。た・ん・そ とか さ・ん・そ とか、そういう名前を与えるべき存在ではない、それが分かった。つまり6や8にわざわざ名前を与えているのは僕たち人間の便宜からだけであって、実際のところそれらは名前の違いほど異なる何かではないとやっと理解した。つまりただ広がっている境なき世界、情報を、勝手に分節化して、名前を与えて、実在のようなものとして取り扱っている、そういう人間的な学問が化学なのだ、と。

そう考えていくと、化学に対して昔から持っていた僕の中での違和感が急に氷解していき、一気に化学が魅力的なものに思えてきた。

そう、化学は人間の学なのだ。色々な分子の性質について書かれたページをめくってもそれは分かる。たとえばそうしたページには大抵まず、色のこと、つまり光学的性質が書かれている。無色透明だとか暗褐色だとかだ。ここからも化学の人間性が見える。この光学的性質というのはすべて僕らの視覚的性質を前提にしているから(特定の専門分野の本でないかぎり、ラジオ波やガンマ線に対する光学的性質が書かれることは少ない)。

しかしもしコウモリ達が彼ら自身の化学を作ったら、そこには何よりまず、音に対する反射特性のことが書かれるだろう。